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センターニュース No.21

誰のための病院か?

理事長 五十嵐教行

ある看護学生から興味深い話を聴いたので、紹介したい。アメリカ研修で子どもの病院を見学した時の話である。その病院は「すべてが子どもの目線で作られていると感じられた」ということだった。どこが子どもの目線で作られていたのか。

まず、窓の高さが低い。当然のことながら子どもの身長は大人よりも低い。長期療養をしている子どもの視界に外の景色が入るように工夫することは重要だろう。次にトイレの水栓レバー。用を足した後に水を流すと「よくできました」とトイレが褒めてくれるというのだ。レバーを動かした時に音声が流れる仕組みなのだろうけれど、褒められるとうれしいから、流すという習慣がすぐに身に付きそうだ。子どものしつけをしてもらっている感じもする。ひょっとすると大人だって、褒めてくれたらうれしく思うかもしれない。

そうした話の中でも一番驚き、そして感心したのがカツラの話しだった。その病院にはガンの治療を受けている子どもたちがいる。抗ガン剤の副作用として髪の毛が抜けてしまう子どものためにカツラが用意されていて、そしてそれらがバラエティに富んでいるというのだ。その日の気分で気に入ったカツラを選んでつける。その姿をスタッフや母親が見て「かわいいねえ」と言う。髪の毛が抜けることをとても悲しく感じている子どもにとって、毎日どのカツラを選ぶかといったことでいくらかでも楽しい気分になれるのだとすれば、さらには療養中のふさぎ込みになりがちな気分が少しでも和らぐのであれば、このカツラの果たす役割は大きい。カツラのなかにはお姫様タイプもあって、それに合わせたドレスまで用意されているという。サポート側の徹底した強い意志を感じる。

最後に注射の話。注射器がロケットの形をしていて、看護師が「からだの中のバイ菌をロケットの注射でやっつけようね」などと言って、注射をするという。

子どものための病院なのだから、遊び心満載な雰囲気がやはりいいのだろう。病院とはこういうものだと決めつけないで、誰のために治療をするのかといった原点に立ち返れば、子どもたちが生き生きと治療を受けられる、あるいは治療を受けたいといった気持ちになれるためにどうすべきか考えて答えを出すことは自明の理だ。

私たちは誰に援助するのか。その人にとって何が大切か真剣に考える。「利用者本位」は本気で、徹底的にやらないといけないのだと、この看護学生の話を聴きながら改めて考えた。

余談になるが、この看護学生は今春から看護師として、小児科勤務となるとのことである。社会人の先輩として、今後の活躍を心から祈念したい。

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