その人にとって安心して生活できる場所とは?
副理事長 中村邦洋
まず社会福祉を大きく施設福祉と在宅福祉の2つに分けて、施設と在宅といった生活の場に焦点をあてて考えてみたいと思います。介護保険が導入され早2年が経とうとしている中、社会福祉への展開が在宅福祉へと移行しつつあると思っているのは官僚の人達だけのような気がしています。なぜなら、終の住みかとされる特別養護老人ホームには入所する為の待機者が今も増え続けていますし、リハビリをして在宅に戻る為の施設であるはずだった老人保健施設には在宅に戻れなくて長期入所となっている人々が増えてきているからです。在宅ではなくて施設を選ぶ人が増えているのです。
なぜこのような現象が起きているのでしょうか。そもそも介護保険法は、在宅福祉を支援する為の法律だったはずです。現場で仕事している人達の多くは、このような現象を生み出した介護保険法に対して大きな疑問を感じているのではないかと思います。少なくとも私はそのような疑問を抱きながら毎日仕事をしています。
ここで、その人にとって安心して生活できる場所はどこかと考えてみたいと思います。先にあげた施設福祉と在宅福祉のそれぞれの生活の場所について、次のようにとらえてみます。つまり施設とは規則のある場所、在宅とは規則の緩和された場所であるととらえることができると思います。施設での生活は集団生活という性格上、生活全般に規則があります。在宅での生活では「社会的なルール」という規則はありますが、その規則の中でも自分のライフスタイルを保って生活することができます。
ところでこの自分のライフスタイルのあり方が、一つの個性の表現であると言えます。残念ながら施設での生活では、この個性が強いと「あの人はガンコだ」とか「自分勝手な人」などと言われ、本人がそれまで守ってきたライフスタイルを維持する為に本当にやってほしい事や希望などを求めれば、それらは全て「本人のわがまま」と受け止められてしまいかねません。そして、そうされることによって生活意欲が低下し、生活の質の維持が出来なくなる事も出てくるかもしれません。もっとも在宅生活でも全て自分の思い通りに生活ができているとは言えないかもしれません。
しかし本人の事を考えて援助してくれる人達がいる事で、生活の質が下がらないばかりか向上する事もあると思います。だからといって施設での生活が不自由で、利用者の生活について考えずに援助している人がいるというわけではありません。施設での生活は在宅生活と違い、医療や介護的な事で本人や家族にとって安心感を得る事ができる生活環境であると言えます。つまり施設もまた安心できる場所だということです。
結局のところ、施設生活にしても在宅生活にしても、利用者にあった場所で生活できることが一番幸せなのではないかと思います。施設は施設で良い所悪い所、在宅は在宅で良い所悪い所があると思いますが、一人ひとり安心して生活できる場所を見つけていく事が出来ればよいのではないだろうかと感じています。その為の援助をすることを念頭において、日々の仕事にこれからも取り組んでいきたいと思います。