アニマル・アシステッド・セラピーの研究と実践の活動報告
副理事長 今木康彦
10年程前からメディアを通じて、「アニマルセラピー」や「動物からの癒し効果」という言葉をよく耳にするようになりました。また、全国的に飼い主が犬や猫を連れて社会福祉施設等へ訪問するボランティア活動が行われています。多くの方は、「アニマルセラピー」=「動物からの癒し効果」と考えているのではないでしょうか。
ところが、「アニマルセラピー」を直訳するならば、「動物に対する治療」となるのです。つまり、人から虐待を受けた犬などの動物に対して、人との“いい関係”を再び作り上げるための治療などの意味となり、正確には「アニマル・アシステッド・セラピー(動物介在療法、以下AAT)といいます。
しかし、犬や猫を連れて訪問活動するだけではAATとはいえないのです。それにはセラピストの存在が必要になります。セラピスト(人の医療の有資格者等)は全責任をもって、患者の選択、治療計画の設定、治療、患者の評価等を行います。よって、通常行われている訪問活動は、正確にいうならば「アニマル・アシステッド・アクティビティ(動物介在活動)」といいます。
以上のような言葉の問題は、アロマテラピー等に類似した言葉として、また言葉の語呂がいいことから「アシステッド」を省略して「アニマルセラピー」と使われ始めたのではないかと思われます。しかし、この「アシステッド」(日本語では「介在」と訳す)というこの言葉こそAATの大切なポイントなのです。AATを行うことによって、患者はまず動物と関係を作り上げ、次にセラピストとの関係を作り、さらにそれ以外の人たちとの関係を作っていくのです。
人が人の社会で生きていると実感するのは、やはり人と人との関係があるからではないでしょうか。
このような背景の下に、当センターでは、AATの理論の確立とともに幅広い分野におけるAATの応用について調査、研究および実践を目的として、取り組んでいます。そして、我々の調査等については、基本的に犬を使ったAATを考えています。
なぜならば、日本人の生活で一番なじみが深く、また最近の傾向として、以前は多くの飼い主が犬に対して家を守る番犬として飼っていたのが、人生を共にする同伴犬(コンパニオンアニマル)として飼うように変わりつつあるようなことからも、日本人にAATを用いるときには犬が最も適しているのではないかと思われるからです。
社会福祉事業研究開発基金助成金対象研究として、犬から人に与える癒しの力に関する基礎的な調査・研究を今年の春から行っています。
この調査・研究の特徴は、ホームヘルパーに犬を同行させるという在宅支援における効果を調べているところです。夏から秋にかけてデータの収集を行い、現在はその内容の分析に入っています。今後、結果および考察は論文にまとめ発表していく予定です。