MENU

センターニュース No.12

「なぜもっと早く相談してくれなかったのか」というセリフ

理事長 五十嵐教行

専門家と言われる人の中に、「なぜもっと早く相談してくれなかったのか。早くに相談してくれたなら○○で済んだのに。バカだなぁ」と言う人がいる。誰かに迷惑をかけるわけでもなく個人的な相談だったはずなのに、早い時期に相談しなかったことがものすごく悪いことだったように言われた経験をお持ちの方は多いのではないだろうか。

相談する立場から言えば、もちろん相談する前に自分で解決できるかどうか考えてみるし、解決方法が浮かべばそれらを試してみたりもする。つまり自己努力をするわけだ。なぜならすぐに人に頼るのではなく、自分で何とかすることが大切だと小さい時から教えられてきたからだ。そうして、一向に良い方向に向かわず、さらに状況がせっぱ詰まってきた時に、多くの人はそこで誰かに相談するかということになる。ところが誰に相談すべきかという問題は大きな問題だ。自分に納得いくような解決方法を教えてくれる人でなければならないし、何よりもまず自分のことをバカにしない人でなければならないからだ。そうしてその人に相談相手としてようやくたどり着くわけだ。

社会福祉の専門家はそのようにして目の前に現れた人の心理状況をまず理解すべきだろう。よくぞ相談してくれました、よくぞ私を選んでくれましたと考えるべきなのである。それなのに「なぜもっと早く・・・」と言ってしまえば、自分に相談したことを後悔させてしまうことになる。このセリフは自分への信頼に対する裏切りに近いだろう。

ところでなぜ「なぜもっと早く・・・」と言ってしまうのか。それは自分にも解決方法が浮かばないからである。だからこのセリフは、とどのつまり自分の勉強不足、力不足であることの裏返しなのである。思わず口走ってしまった愚痴だ。

落語の小咄に「ヤブ医者」というのがあり、そのなかに「手遅れ医者」という医者が登場する。この医者はどんな患者に対しても「どうしてもっと早くつれて来なかったのじゃ、だめじゃ、手遅れだ」と言うのであるが、医者から手遅れだと言われてしまえば、仕方がないかと本人も家族もあきらめがつくので、ヤブ医者だとばれなかったらしい。しかもその手遅れを治したと言われて、ずいぶん繁盛したとか。それでも時には失敗もあった。

「どうしてもっと早くつれてこなかったのじゃ、だめじゃ、手遅れだ」「えっ、手遅れですか、今屋根から落っこちたところをすぐに運んできたのだけれど、手遅れですか」「うむ、手遅れじゃ」「えっ、そうしたらいつ連れてくれば良かったんですか」「うーむ、落ちる前なら何とか・・・」

おあとがよろしいようで・・・。

このページのトップへ