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センターニュースNo.30

巻頭言

理論を教えてきた「私」は、介護者としての「私」を救えるか?

私事で恐縮だが、2 0 1 9 年7 月から毎週2 ~ 3 日間、1 5 0 キロ離れた独居の父親の元に介護( 主に家事援助) のために通ってきた。これまで、介護者に対するフォローとはどうあるべきなのか考えてきた筆者にとって、今の自分の置かれているこの状況は、まさに実践的に学ぶ環境にあると言える。身をもってわかったことを紹介したいので、おつきあい願いたい。

私の介護日記① - 友人A との会話

私:「今日のお昼にサ、初めてインスタントラーメンを作って父に出してみたんだよ」
友人:「あら? そうなの? どうだった? 」
私:「うん、それがね、食卓の上にあるどんぶりを見て、『おっ、今日はラーメンか! 』って言って、うれしそうな顔して席に座ったんだよ」
友人:「へー、そうなんだ。よかったじゃない。きっと自分でご飯を作っていた時にインスタントラーメンも食べていたんだろうね」
私:「スープまで、全部飲んでくれた! 」
友人:「うれしかったんじゃない? おとうさん。よかったね」
私:「うん、手抜きって思われるんじゃないかって思っていたんだけどね」
友人:「うん。まあ、誰もそんな風には思わないんだけどね。思い切って作ったかいがあったんじゃないの? たまにはいいんじゃない? 食べていたモノだったんだから」
私:「そうか・・・・、そうかも」

私の介護日記② - 五十嵐主催勉強会の古参の受講者との会話

私:「この間、父親のためにブリのアラ煮を作ったんですよ」
受講者:「あら、先生。そんなのを作ったんですか? 」
私:「はい。ところが『お昼は、ブリのアラ煮だからね』と言ったら、私に向かって、2 本の人差し指で× を作って、首を横に振ってきたんですよ」
受講者:「あらら、それでどうしたんですか? 」
私:「その× を見せられたら、なんかもう、いっぺんに気が抜けちゃって、全否定されたような気がしてきまして・・・・・」
受講者:「まあ、それで? 」
私:「はい、徐々に腹が立ってきちゃって。“ よし! わかった! ” ってなりまして。冷蔵庫にあるモノで急遽天ぷらをあげることにしたんです。“ これでどうだ! ” って出しました」
受講者:「先生、がんばりましたね」
私:「はい、がんばりました。父親も、席につくなり『おっ! 天ぷらか! 』って言って食べ始めたので、“ よっしゃー! ” って思いました」
受講者:「すごいすごい。ところで、お父さんの× した理由なんですが、ひょっとしてこういうことがあったんじゃないかなと思うんですよ。「ブリのアラ煮」って、けっこう骨があるじゃないですか。もしかしたらその骨を取るのが考えただけで面倒になったんじゃないですか。年寄りって、そういうとこありますから。私も母の介護で経験しました」
私:「へー、そうですか。そうだったのかな。父親も考えただけで、“ めんどくせぇなぁ” って思ったってことですか」
受講者:「きっと、そうじゃないかなって思います。先生は料理が得意だから、× を出したら、なんか違うのが出てくるんじゃないかと思ったんじゃないんですか? 」
私:「そうですかね。うーん、そうなのか。そうかも・・・・」
受講者:「そうですよ、きっと」

友人や私が長年主催している勉強会の古参の受講者にはとりとめのない話や愚痴を話している。このような話を聴いてもらえる友人や受講者のおかげで、私の気持ちは救われる。そんな彼らには感謝しかない。話しを聴いてもらってラクになった夜、自分の幸せを噛みしめる。自分がいつの間にか孤立していたことに気がつくからだ。

これまでの講義では、介護者は孤立しがちだから周囲からのサポートが必要だと言ってきた。それを十分に理解していた自分だったが、身をもって孤立するとわかったからこそ、「元気にしてる? 」というお節介の電話などは必要なんだと自信を持って言える。「講師の私」は「私」を救え、、、、、、
なかったけれど、「私」も誰かのお節介を焼きたいと思う。

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